換金するときに、「信託財産留保額」が徴収されるようになっている投資信託もあります。
簡単に信託財産留保額は解約時手数料と同等だと説明されることもあります。
でも、それはあまりにも大雑把に説明しています。
信託財産留保額が単なる手数料ではありませんし、投資家にもメリットがある仕組みです。
ここでは、「信託財産留保額」とはどんなものかを説明します。
信託財産留保額とは
信託財産留保額とは、投資家間の公平性を図るために投資信託の換金を申し込んだ投資家から徴収するものです。
ある意味、投資信託の換金ペナルティ料として徴収されます。
金融機関によっては、「信託財産留保金」と呼ばれることもあります。
信託財産留保額が設定されている投資信託では、換金時に信託財産留保額を徴収するものがほとんどです。
でも、まれに購入する時に信託財産留保額を徴収するように設計されている投資信託もあります。
ここでは換金時に信託財産留保額が徴収される前提で説明します。
信託財産留保額の計算
信託財産留保額の計算の方法を説明します。
信託財産留保額は目論見書で確認
換金時にどれほどの信託財産留保額が必要となるかは、目論見書に記載されています。
決められた計算方法に従って信託財産留保額が算出されます。
例えば、目論見書に信託財産留保額が以下のように決められていたりします。
換金のための基準価額を使って計算される
上記のような信託財産留保額が1%の投資信託を換金するとして計算してみましょう。
このとき、換金時の基準価額が10,000円であったとします。
この場合、換金するときの計算は基準価額10,000円では行われず、信託財産留保額の1%を差し引いた9,900円という解約価額を用いて計算されます。
例えば、1,000,000口の投資信託(基準価額10,000円、評価額100万円)をもっていて 、すべて換金したとしても、9,900円の基準価額で計算されますので、受け取れるのは100万円ではなく99万円となります。
1万円の信託財産留保額を負担した計算になります。
信託財産留保額はどこにいくのか?
信託財産留保額は、投資家が負担し換金時に差し引かれるため、一見すると換金手数料と同じです。
でも、信託財産留保額は、手数料とは全く性質の異なるものなのです。
まず、徴収された信託財産留保額は誰が受取るのかを考えましょう。
投資信託を保有し続ける投資家が受取る
信託財産留保額は、普通の手数料(販売手数料、信託報酬など)とは違って、運用会社や販売会社の収入(収益)になりません。
実は、引き続きその投資信託を保有し続ける投資家が受取ることになります。
信託財産留保額は信託財産に留保される
徴収された信託財産留保額は、その名称からも推察できるように信託財産に留保されるものです。
つまり、信託財産留保額は、引き続き投資信託を保有する他の投資家のために信託財産を少し残していく、置き土産的な制度なのです。
残された信託財産留保額は信託財産に組み入れられ、純資産総額に加えられます。
そして、基準価額や分配金にも反映されます。
信託財産留保額にはどんなメリットがある?
投資信託の販売会社も運用会社も受取ることができないのに、どうして信託財産留保額を徴収する仕組みが用意された投資信託があるのでしょうか?
信託財産留保額には様々なメリットがあるのです。
わたしたち投資家にとって、どのようなメリットがあるのでしょうか?
投資間の公平性を保つため
換金が発生することで徴収された信託財産留保額は、引き続き投資信託を保有する投資家の持ち分になります。
つまり、投資信託を保有し続ける投資家にとっては、自分の持ち分が増えることになります。
信託財産留保額の意味の一つは、換金に伴う売却コスト(株式や債券の売買委託手数料など)を公平に負担させることができる点です。
換金注文があると、投資信託の信託財産内で解約代金を準備する必要があります。
信託財産の株式や債券を売却するコストを換金する人に負担してもらうという考え方です。
短期の売買を抑制する
信託財産留保額があることで、投資信託の短期での売却を抑制するというメリットもあります。
信託財産留保額が徴収される投資信託では、換金する度に置き土産(信託財産留保額)を置いていかなくてはなりません。
つまり、投資家は頻繁に投資信託を売買すると不利になり、長期保有するほうが有利となります。
結果として、投資信託の短期売買が抑制され、投資信託の全体の運用を安定させる効果を期待できます。
そうなれば、運用会社としても運用資金が頻繁に換金されることなく安定的に運用できるメリットがあります。
また、安定的な運用が行われることは運用成果にも関係することであり、最終的には投資信託を保有する投資家にもメリットがあるといえるでしょう。
信託財産留保額が設定されているなら長期投資向け
信託財産留保額の仕組みやそのメリットについて説明しました。
一見すると換金手数料ですが、全く違うものです。
投資信託のコスト引き下げ競争が活発になっていますが、信託財産留保額があるからといってコストが高いと誤認しないようにしましょう。
むしろ、長期保有する投資家の利益を守ってくれて、運用が安定することを考えれば、長期投資向けの投資信託であるという見方もできます。